大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成9年(ワ)20288号 判決 1999年6月29日

原告

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

小林芳男

加藤悟

被告

株式会社博報堂

右代表者代表取締役

東海林隆

右訴訟代理人弁護士

古曳正夫

中村直人

奥田洋一

角田大憲

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金五〇〇〇万円及びこれに対する平成九年一〇月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、被告に懲戒解雇された原告が、懲戒解雇は解雇権の不当な濫用であるとして、不法行為に基づく損害賠償請求権に基づいて、被告に対し、解雇されなければ原告は少なくとも六〇歳の定年までは勤務することができたことによる得べかりし賃金の合計として金一億一六〇一万二五五九円、本件解雇がなければ原告が定年まで勤務することができたことによる得べかりし退職金として金三〇〇〇万円、原告の解雇が懲戒解雇ではなく普通解雇であれば解雇された時点で原告が三二年間勤務したことによる得べかりし退職金として金一五〇〇万円、本件解雇によって原告が収入を失い住宅ローンの支払が遅滞して原告の所有に係る建物が競売により失われたことに対する損害として金五〇〇〇万円、解雇によって原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料として金一〇〇〇万円、弁護士費用として金三〇〇万円、総計金二億〇九〇一万二五五九円又は金一億九四〇一万二五五九円のうち金五〇〇〇万円及びこれに対する不法行為の後であることが明らかな平成九年一〇月七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

二  前提となる事実

1  原告は昭和三六年に被告に雇用され、昭和五六年に営業担当として被告の那覇支社に勤務した(争いがない。)。

2  被告は平成五年七月二八日原告に対し右同日付け通知書(<証拠略>)により同人を懲戒解雇する旨の意思表示をした(以下「本件解雇」という。)。右の通知書には「就業規則六九条第二号、第三号に該当するので、貴殿を一九九三年七月三一日を以て懲戒解雇する。」などと書かれていた(通知書の内容については<証拠略>。その余は争いがない。)。

3  被告の就業規則には、次のような定めがある(<証拠略>)。

(一) 六六条(懲戒の種類)

(1) 職員が、第六七条、第六八条および第六九条に定める懲戒理由に該当した場合は、懲戒に処する。

(2) 懲戒は、次の各号のとおりとする。

ア 譴責……始末書をとり、訓戒を与える(一号)。

イ 減給……始末書をとり、減給する。ただし、減給は1回の額が平均給与の1日分の半額をこえず、また総額が月総収入の10分の1をこえない限度で、その額を定める(二号)。

ウ 出勤停止……始末書をとり、7日以内の期間を定めて出勤を停止し、その期間の給与を支給しない(三号)。

エ 懲戒解雇……即時に解雇する(四号)。

(二) 六九条(懲戒解雇事由)

職員が、次の各号の1に該当する場合は、懲戒解雇とする。

(1) 一号は省略

(2) 業務上の地位を利用して、不当に私利をはかった場合(二号)

(3) 故意または重大な過失により、会社に著しい損害を与えた場合(三号)

(4) 四号ないし一〇号は省略

(三) 七一条(管理者の管理責任)

職員が懲戒に処せられた場合、その管理者は、管理責任について第六六条に定める懲戒に処せられることがある。

(四) 七二条(表彰および懲戒の手続)

表彰および懲戒は、賞罰委員会にはかった上で行う。

4  原告は被告に対し同年八月一七日付け内容証明郵便及び同年一一月二日付け内容証明郵便により解雇理由の内容の開示を求めたところ、被告は原告に対し同月一九日付け書面を送付してきたが、その書面には「当社は、貴殿より貴殿文書中で当社による説明をご要望頂いております解雇理由については、社内調査の手続きで対象となった貴殿の担当業務に起因するものであることが、貴殿への解雇申し渡しの時点までに、十分に明らかになっていたものと理解しております。(中略)当社として、貴殿文書による貴殿からのご要望事項については、貴殿も十分にご承知のことであり、貴殿に対し改めてご説明をする必要はないものと考えます。」などと書かれていた(被告が原告あてに送付した書面の内容については<証拠略>。その余は争いがない。)。

5  原告代理人らが被告に対し平成八年一二月一八日付け通告書により解雇理由の内容の開示を求めたところ、被告代理人である奥田洋一弁護士及び中村直人弁護士は平成九年一月二四日付け回答書を原告代理人らあてに送付したが、その回答書には「当社元社員甲野太郎氏(以下「甲野氏」という。)の主な解雇事由は次のとおりです。(中略)1 九一年ビルフィッシュ・トーナメント・パンフレット制作に関する架空発注による一四七万円の会社への不正請求、着服2 個人使用した旅費の琉球リゾート主催の海外視察旅行名目による会社への不正請求、着服(一一件一一三万六一三六円) 3出張旅費の会社への二重請求、着服(四件四三万二四〇〇円)」などと書かれていた(回答書の内容については<証拠略>。その余は争いがない。)。

三  争点

1  本件解雇は解雇権の不当な濫用に当たるか。

(一) 原告の主張

(1) 原告は平成四年一二月に行われた監査の際に平成九年一月二四日付け回答書(前記第二の二5)に記載してある具体的な案件について釈明を求められたことがあったが、その際に次のような説明をしている。

ア ビルフィッシュ・トーナメントのパンフレットの制作費用は万座ビーチホテル部門がこれを負担すべきであったが、同ホテルの印刷部門で赤字が出そうであり、当時の上司である新垣昌一(以下「新垣」という。)那覇支社長から赤字部門を作らないよう指示されていたので、ラグナガーデンホテルの予算枠で処理したにすぎない。この件は、どちらの名目で請求するかだけの違いであり、上司の承諾を得て伝票の名目だけを振り替えたにすぎず、このような方法による処理は被告においては通常行われているもので慣例となっている。また、パンフレットの制作費用金一四七万円に金一三万円のマージンを上乗せした金一六〇万円をラグナガーデンホテルに請求し、同ホテルから支払がされており、被告には全く損害が発生していない。また、被告は、原告が株式会社ブルーメディア(以下「ブルーメディア」という。)から金一四七万円を受け取っていると主張するが、原告がブルーメディアから受け取った金一四七万円はブルーフィッシュ・トーナメントの取材費として使用している。

イ 琉球リゾート海外視察旅行は被告の業務命令に基づいて行ったことであり、原告は琉球リゾート海外視察旅行の費用については株式会社琉球リゾート(以下「琉球リゾート」という。)の代表者である金城直樹(以下「金城」という。)からすべてサシバリゾート開発プロジェクトの費用として処理することの承諾を得ており、右の承諾に基づいて海外視察旅行の費用金一一三万円余りに一〇ないし一五パーセントのマージンを上乗せした約金一三〇万円を琉球リゾートに請求し、同社から支払がされている。被告は、サシバプロジェクト海外視察費用として株式会社富士ツーリスト(以下「富士ツーリスト」という。)に支払われた金一五〇七万二一五六円の中に原告が個人で旅行した分が含まれていることを問題にしているが、そもそも琉球リゾートの金城は原告が個人で旅行した分も負担するつもりでいたのであり、サシバプロジェクト海外視察費用として富士ツーリストに支払われた金一五〇七万二一五六円の中に原告が個人で旅行した分が含まれていたことは特に問題とすべき事柄ではない。

ウ 出張費用については右イと同様の処理をしており、被告には全く損害をかけていない。

(2) このように平成九年一月二四日付け回答書に記載された三点はいずれもとるに足らないささいなことであり、かつ、原告はすべて説明し、監査の時点で解決済みのことである。したがって、これらの事項を理由とする本件解雇は解雇権の不当な濫用として無効である。

(二) 被告の主張

被告は原告による不正行為を理由に本件解雇に及んだのであるが、本件解雇の理由とされた原告による不正行為は、架空発注による金員の詐取と個人の旅行費用などの被告からの詐取である。

(1) 架空発注による金員の詐取

ア 被告の内部監査部門である監査室が平成四年一一月被告那覇支社の原告の業務全般について特別監査を実施したところ、被告の顧客であるラグナガーデンホテルから発注された「オープン告知VTRCF制作」の業務における原価の中にこれと全然関係のない「九一年ビルフィッシュ・トーナメント・パンフレット制作」という業務の発注、支払が混入されていることが判明した。

イ 監査室は同年一二月一六日被告那覇支社において原告から右のアの件について説明を求めたところ、原告は「九〇年のビルフィッシユ・トーナメントが台風のため中止となり、そのときのパンフレットの広告掲載料の補償として九一年はパンフレットの広告掲載料を無料とした。そこで、被告は九一年のパンフレットの制作費を得意先である沖縄全日空リゾートに請求することができなくなり、別件の業務に紛れ込ませた。」と説明した。

ウ しかし、右イの原告の説明については、被告はパンフレットの制作業務を受注しただけであるから、パンフレットの発行者である全日空リゾートが広告掲載料を無料にしたからといって、被告が全日空リゾートにパンフレットの制作費を請求できなくなる理由はない。また、だからといって、ラグナガーデンホテルという別の顧客の原価勘定に組み入れるという処理は虚偽の処理以外の何ものでもなく、なぜそのような処理をすることになるのかについて合理的な説明になっていない。

エ また、原告は、平成五年一月一四日、パンフレットの制作業務をブルーメディアに発注し、同社がこれを株式会社沖産業(以下「沖産業」という。)に発注したと主張して、これを裏付ける請求書や領収書を監査室に提出してきた。ところが、ビルフィッシユ・トーナメント・パンフレット制作の業務については、被告はブルーメディアからの請求を受けて制作費を支払っていたが、他方において、実際には株式会社近代美術(以下「近代美術」という。)及び合資会社山室光樹事務所(以下「山室事務所」という。)がビルフィッシユ・トーナメント・パンフレット制作の業務を行っていたことが判明し、ブルーメディアの代表者である比屋根忠彦(以下「比屋根」という。)は同年二月九日ブルーメディア経由でビルフィッシュ・トーナメント・パンフレットの制作をしたということがうそであることを認めた上、平成四年一二月下旬ころ原告に指示されて虚偽の請求書や領収書を用意してこれを原告に渡したことを明らかにした。

オ 原告は平成五年二月九日被告本社において監査室から事情を聴取されていたが、比屋根がうそを認めたことを告げられた原告は、しばらく絶句した後、ブルーメディアへの発注が虚偽であったことは認めたが、別件の赤字を補てんするためにしたことであるという言い訳を主張し始め、同年三月初旬にブルーメディアがビルフィッシユの渡航費(支払先は富士ツーリストである。)及び看板制作費(支払先は有限会社コーディ・プロ(以下「コーディ・プロ」という。)である。)を立替払いしたので、ビルフィッシユ・トーナメント・パンフレット制作費の名目で被告あてに請求してもらったと主張するに至り、これを裏付ける領収書を監査室に郵送してきた。

カ しかし、右オの原告の説明については、なぜブルーメディアが立替払いをしたのか、なぜ別件名で請求しなければならないのかが不明であり、それ自体信用に値するものではなかった。

キ また、ビルフィッシユの渡航費の立替払いの件については富士ツーリストが平成三年五月から同年七月にかけて領収書に記載されたチケットを発券した事実がないこと、富士ツーリストが平成五年二月ころ原告の指示で領収書を二通作成してこれを原告に交付したことが判明し、ビルフィッシユの看板制作費の立替払いの件についても、ブルーメディアがコーディ・プロに看板制作を発注したことがなく、立替払いをしたこともないことが判明した。

ク その上、被告は平成三年七月二二日ブルーメディアに対しビルフィッシユの件として金一六四万八〇〇〇円及び別件として金二〇万〇八〇〇円、合計金一八四万八八〇〇円を手形で支払っていたが、比屋根はこの手形を沖縄銀行で割り引き、同年八月原告の要求に基づいてそのうち金一四七万円を現金でかつ領収書なしで原告に交付したことも判明した。

ケ 監査室は平成五年五月一〇日原告から事情を聴取したが、原告は富士ツーリストに虚偽の領収書を作成させた事実などについて全く反論できなかった。しかし、原告は更に再度別件の赤字の補てんに使用したなどと、これまでとは全く異なる言い訳を主張し始めたが、その言い訳には全く具体性はなく、これまでの経緯に照らしても、原告は極めて悪質な隠ぺい工作を重ねてきたものであって、原告の言い訳には全く信用性は認められなかった。

コ 被告監査室は、以上の調査の結果によって原告の不正は明らかになったとして関係者に報告書の提出を求め、同年六月一六日から同月一八日にかけて報告書の提出を受けたが、その際に原告が同月一五日富士ツーリストの担当の女性に口止めの脅迫電話を架けていたことが判明した。

(2) 個人の旅行費用などの被告からの詐取

ア 監査室による調査の過程で、被告は平成元年一二月二二日及び同月二八日ブルーメディアからの請求書に基づいて同社に対し手形により金三五〇二万円を支払っていたが、請求書に記載された件名に虚偽があり、現実には全く行われていない架空業務であること、この金三五〇二万円の大部分は琉球リゾートが主催する海外視察旅行の渡航費用金一五〇七万二一五六円などとしてブルーメディアから富士ツーリストに支払われていることが判明した。

イ 原告は平成五年三月八日ブルーメディアから富士ツーリストに支払われた金額が金一五〇七万二一五六円であることなどを記載した報告書を監査室に提出し、監査室から請求の明細の提出を求められた原告は同月一二日富士ツーリストの請求書の控え約金九一〇万円分を送付し、次いで同月一八日約金五五〇万円分を追加送付してきた。原告は右同日「富士ツーリストが倉庫に行って請求書の控えを探し、まず最初に約金九一〇万円分が見つかり、その後数日して約金二〇〇万円分が見つかり、さらに同月一八日約金三五〇万円分が見つかった。残りの分は富士ツーリストの担当者が退社したためによくわからない。」と報告してきた。

ウ ところが、実際には富士ツーリストは金一五〇七万二一五六円分の請求書の控え二四通をすべて原告に提出していたのであり、右イの原告の報告が全くの虚偽であること、この二四通のうち一五通は長い間原告が富士ツーリストに支払ってくれなかったもので、同社が原告に請求しても、原告は「責任を持って処理するから。」というばかりで支払われなかったところ、平成二年一月五日になって二四通がまとめて支払われたことが同月一八日に判明した。

エ 監査室が調査したところでは、二四件のうち正当な海外視察費用は九件、原告個人使用分が一一件、業務出張ではあるが、別途被告から原告に出張旅費が支払われており、二重取りした分が三件、裏付けの取れない分が一件であった。原告個人使用分には原告の家族の旅行の費用の分や原告が有給休暇中の旅行の費用の分まで含まれていた。

オ 原告は富士ツーリストから二四件すべての請求書の控えを持っていったにもかかわらず、個人使用分等だけを除いて被告に提出した上、「富士ツーリストが倉庫を探して順次見つかったものであり、かつ一部は不明である。」などと虚偽の報告をしていたのであり、原告も同年五月一〇日個人使用分であることを認めた。そこで、被告は同年六月一六日富士ツーリストから報告書の提出を受けた。

(3) 以上のとおり、本件では原告の数々の不正行為が証拠上明らかであり、これらが本件就業規則六九条二号及び三号に該当することは明らかである。しかも、そのことは原告自身も重々承知しており、不正が発覚した後にも次々と証拠を偽造し、証人に口止めを強要するなどし、悪質な隠ぺい工作を重ねていたのであるから、本件解雇が解雇権の濫用であるということはできない。

なお、被告は平成六年一月右翼の松魂塾の中島登と名乗る人物から原告の件で話をしたいから一時間以内に話の分かる人物に電話を架けさせるよう求められ、被告の担当者が中島登に電話を架け、結局のところ、原告と中島登が同月二六日に被告に来社することになり、被告は右同日に来社した原告と中島登に対し原告の懲戒事由を詳細に説明した。これは、原告の被告に対する威嚇行為であって、原告に正当性がないことはこのことからも明らかである。

2  損害額について

(一) 原告の主張

原告が本件解雇により被った損害は、次のとおりである。

(1) 逸失利益 金一億四六〇一万二五五九円ないし金一億三一〇一万二五五九円

原告は本件解雇当時(平成五年七月三一日)五一歳であり、六〇歳の定年まで九年間勤務が可能であったが、本件解雇によりその間の得べかりし給与収入を失った。原告の平成四年当時の年間給与収入は金一三八六万九八五〇円であるから、平成五年(五か月分)ないし平成九年分の給与は各年ごとに年五パーセントの遅延利息を付した金額であり、その合計は金六六五七万五二七八円であり、平成一〇年ないし平成一三年までの給与は各年ごとに新ホフマン方式で中間利息を控除した金額であり、その合計は金四九四三万七二八一円であり、総計は金一億一六〇一万二五五九円である。また、原告が定年まで勤務することができたことによる退職金は金三〇〇〇万円を下らないが、原告は本件解雇によりこれを失った。また、原告が三二年間勤務したことによる退職金は金一五〇〇万円を下らないが、本件解雇が普通解雇ではなく懲戒解雇であることによりこれを失った。

(2) 自宅の喪失 金五〇〇〇円

原告は本件解雇によって収入を失い、そのため住宅ローンの支払が遅滞して原告の所有に係る建物が競売に掛けられ、自宅を喪失したが、それによる損害は金五〇〇〇万円を下らない。

(3) 慰謝料 金一〇〇〇万円

原告が本件解雇により被った多大な精神的苦痛を慰謝するには金一〇〇〇万円をもってしても足りない。

(4) 弁護士費用 金三〇〇円

(二) 被告の主張

争う。

第三当裁判所の判断

一  争点1(本件解雇は解雇権の不当な濫用に当たるか。)について

1  証拠(前記第二の二2の事実、<証拠・人証略>、原告本人(ただし、次の認定に反する部分を除く。))によれば、次の事実が認められる。

(一) 万座ビーチホテルが主催するビルフィッシュ・トーナメントという釣り大会の広告関係はかねてから被告那覇支社が取り扱っており、同支社に勤務していた原告がその担当であった。原告は平成三年六月ブルーメディアの代表者である比屋根に対し被告あてに九一年ビルフィッシュ・トーナメント・パンフレットの制作費用を請求するよう指示し、比屋根は右の指示に従って被告あてにパンフレット五〇〇部の印刷費用である金一六〇万円に消費税金四万八〇〇〇円を加えた金一六四万八〇〇〇円を請求するという内容の同月一九日付け請求書を作成し、この請求書と右同日付けの金二〇万〇八〇〇円の請求書を合わせて被告あてに提出し、被告は同年七月二二日ブルーメディアに対し金一八四万八八〇〇円を手形で支払い、比屋根はこの手形を沖縄銀行で割り引き、同年八月このうち金一四七万円を原告に渡し、原告はこれを着服した。ところが、原告が九一年ビルフィッシュ・トーナメント・パンフレットの制作を実際に発注したのは近代美術及び山室事務所に対してであり、原告はこのパンフレットの制作費用を万座ビーチホテルから発注された「ビルフィッシュ・トーナメントの広告」の原価には計上せず、被告がラグナガーデンホテルから発注された「オープン告知VTRCF制作」の原価に計上し、この経費として近代美術及び山室事務所に対する支払をした(<証拠・人証略>、原告本人)。

(二) 琉球リゾートが計画した沖縄県宮古郡下地島におけるリゾート開発(サシバプロジェクトと呼ばれていた。)には被告那覇支社も関与しており、原告がその担当であった。琉球リゾートは被告に対しサシバプロジェクト海外視察旅行(以下「本件海外視察旅行」という。)を発注し、平成三年一二月本件海外視察旅行が実施された。原告はサシバプロジェクトの被告那覇支社における担当者として金城が本件海外視察旅行に出かけるのに同行した。原告は本件海外視察旅行の航空券の手配、被告の業務として海外や国内に出張する際の航空券の手配又は個人で旅行する際の航空券の手配を富士ツーリストに依頼しており、原告が平成三年六月から同年一二月にかけて富士ツーリストに航空券を手配させた件数は本件海外視察旅行の件も含めて全部で二四件にのぼり、その代金の合計は一五〇七万二一五六円であった。原告はこの二四件のうち本件海外視察旅行の航空券の代金を除いたその余の代金についてはなかなか支払をしようとはしなかったが、同年一二月に琉球リゾートから発注された本件海外視察旅行が実施されたことから、本件海外視察旅行の経費の支払を利用して右の未払分を支払うことにし、ブルーメディアに指示してサシバプロジェクトのマスタープラン作成のためのリサーチ料、マスタープラン作成のための写真撮影料及びマスタープラン作成のための資料作成料という件名で合計金三五〇二万円の請求を被告あてに提出させたが、ブルーメディアが実際に右の件名に係る業務を行ったわけではなかった。被告は右の請求書に基づいて平成元年一二月二二日及び同月二八日ブルーメディアに対し手形により金三五〇二万円を支払った。ブルーメディアは平成二年一月五日富士ツーリストに対し原告の前記二四件の航空券代金に相当する金一五〇七万二一五六円を振込により支払い、富士ツーリストはこの振込によって原告の前記二四件の航空券代が支払われたものと考えていた(<証拠・人証略>、原告本人)。

(三) 被告は平成四年九月原告が担当していたサシバプロジェクトの業務の発注先であるH・MOGI PLAN NING&RESEARCH INCから業務の報酬の支払を求める内容証明郵便の送付を受けた。被告は経理部門による調査の結果を踏まえてその支払に応じることにしたが、その経理部門による調査の中で原告の担当業務に不審な点があることが判明した。そこで、被告の内部監査を担当する監査室が同年一一月那覇支社における原告の担当業務全般について特別監査を行ったところ、原告が九一年ビルフィッシュ・トーナメント・パンフレットの制作費用を被告がラグナガーデンホテルから発注された「オープン告知VTRCF制作」の原価に計上していることが判明した。監査室の職員が同年一二月一六日那覇支社において原告に説明を求めたところ、原告はパンフレットの制作はブルーメディアに発注し、ブルーメディアはこれを沖産業に発注したと主張し、平成三年六月一七日付けの沖産業のブルーメディアに対する請求書と同年七月三〇日付けの沖産業のブルーメディアに対する領収書を提出してきた。しかし、監査室の職員が調査したところでは、九一年ビルフィッシュ・トーナメント・パンフレットの制作は近代美術及び山室事務所が行っており、沖産業が九一年ビルフィッシュ・トーナメント・パンフレットの制作を行ったことはないこと、原告が提出してきた請求者や領収書は原告が平成四年一二月下旬に沖産業に指示して作らせたものであること、九一年ビルフィッシュ・トーナメント・パンフレットの制作費用としてブルーメディアに支払われた金一六四万八〇〇〇円のうち金一四七万円がブルーメディアから原告に渡されて原告がこれを着服したことなどが確認された(<証拠・人証略>、原告本人)。

(四) 監査室の職員は平成五年二月九日被告本社において原告から事情を聴取していたが、九一年ビルフィッシュ・トーナメント・パンフレットの制作をブルーメディアや沖産業に発注した事実はないことが確認されたことなどを原告に告げたところ、原告は九一年ビルフィッシュ・トーナメント・パンフレットの制作をブルーメディアや沖産業に発注していないことを認めながら、別件の赤字を補てんするためにしたことであるという言い訳をし始め、監査室の職員が原告に具体的な理由を問いただすと、原告は回答に窮し、「思い出すので時間がほしい。再度証拠を提出したい。」と答えた(<証拠略>)。

(五) 原告は、同年三月初旬に、ブルーメディアが富士ツーリストに対しビルフィッシュ・トーナメントを取材するために沖縄にやってきた者の往復の航空券代の立替払いをし、また、コーディ・プロに対し看板制作費の立替払いをしていたので、九一年ビルフィッシュ・トーナメント・パンフレットの制作費の名目で被告あてに請求してもらったという主張をし始め、ビルフィッシュ・トーナメントを取材するために沖縄にやってきた者の往復の航空券代の立替払いを明らかにする趣旨で平成三年五月二四日付けの富士ツーリストのブルーメディアに対する領収書及び同年七月八日付けの富士ツーリストのブルーメディアに対する領収書を、ビルフィッシュ・トーナメントの看板制作費の立替払いを明らかにする趣旨で同年六月五日付けのコーディ・プロのブルーメディアに対する請求書、同月二八日付けのコーディ・プロのブルーメディアに対する領収書、同年七月一九日付けのコーディ・プロのブルーメディアに対する請求書及び同月三〇日付けのコーディ・プロのブルーメディアに対する領収書を、それぞれ提出してきた。しかし、監査室の職員が調査したところでは、富士ツーリストが平成三年五月一日から同年七月三一日までの間に原告のために東京・沖縄間の航空券の手配をしたことはなく、したがって、ブルーメディアが航空券代を立替払いすることもなかったこと、原告が提出してきた富士ツーリストのブルーメディアに対する領収書は原告が平成五年二月に富士ツーリストに指示して作らせたものであること、コーディ・プロが九一年ビルフィッシュ・トーナメントの看板を制作したことはなく、従って、ブルーメディアが看板制作費を立て替え払いすることもなかったこと、原告が提出してきたコーディ・プロのブルーメディアに対する請求者(ママ)や領収書はいずれも原告が平成三年六月から同年七月にかけてコーディ・プロに指示して作らせたものであることなどが確認された(<証拠・人証略>、原告本人)。

(六) 監査室による特別監査の過程で、被告が平成元年一二月にブルーメディアに支払った金三五〇二万円について、請求書に書かれた前記件名が虚偽であること、ブルーメディアに支払われた金三五〇二万円の約九割が本件海外視察旅行の業務費用などの支払に充てられていること、金三五〇二万円のうち金一五〇七万二一五六円がブルーメディアから富士ツーリストに支払われていることなどが判明した。原告は平成五年三月八日ブルーメディアから富士ツーリストに支払われた金員の金額が金一五〇七万二一五六円であることを明らかにした報告書を監査室に提出してきたが、監査室が金一五〇七万二一五六円の明細の提出を求めたので、原告はすぐに富士ツーリストに赴いて同社から金一五〇七万二一五六円の請求書二四通の写しを入手した。原告はこのうち個人で旅行する際に手配した航空券代などの請求書を除いたその余の請求書を同月一〇日と同月一八日の二回に分けて監査室に提出したが、それ以外は見つからないと報告して、個人で旅行する際に手配した航空券代などの請求書は提出しなかった。しかし、監査室の調査によって、原告が富士ツーリストから金一五〇七万二一五六円の請求書二四通の写しを入手していたことが判明し、監査室で富士ツーリストから提出された右の二四通の請求書の写しを調べたところ、正当な海外視察旅行が九件(合計金一三四四万七一四〇円)、原告が個人でした旅行が一一件(合計金一三七万九五三六円)、正当な業務出張であるが、別途被告から出張旅費を受領しており、二重取りした分が三件(合計金一八万九〇〇〇円)、裏付けの取れない分が一件(金一万九二八〇円)であることが判明した(<証拠・人証略>、原告本人)。

(七) 監査室は、右(五)及び(六)の調査結果を踏まえて、同年五月一〇日原告から事情を聴取したが、原告は調査結果を突きつけられて、本件海外視察旅行の件については個人で旅行した分が含まれていることを認めたが、ビルフィッシュ・トーナメントの件については原告がブルーメディアから受け取った金一四七万円を着服したことを認めたわけではなかった。監査室の職員は、原告の不正は明らかであり、もはやこれ以上原告の言い訳を聞く必要はないと判断して原告からの事情聴取を打ち切り、関係者から報告書の提出を求めることにし、同年六月一六日から同月一八日にかけて関係者から報告書の提出を受け、監査室はこれらの報告書などを被告の賞罰委員会に提出し、賞罰委員会は懲戒解雇が相当であるという結論を出し、被告は同年七月二八日原告に対し本件解雇の意思表示をした(<証拠・人証略>)。

(八) 那覇支社在任中の原告は那覇支社の売上げに相当に貢献していた(<人証略>、原告本人)。

(九) 原告の上司であった新垣那覇支社長は原告に対する管理責任を問われて始末書を提出し三か月にわたり金二万円減(ママ)給され、那覇支社長を解任された(<人証略>)。

2(一)  以上の事実が認められる。

(二)  これに対し、

(1) 原告は、原告がブルーメディアから受け取った金一四七万円はビルフィッシュ・トーナメントの取材費に充てたと主張し、その本人尋問において右の取材費の内訳を明らかにする供述をし、これを裏付ける趣旨で証拠(<証拠略>)を提出している。

しかし、右の原告の供述及び証拠(<証拠略>)だけでは、右の原告の主張を採用するには足りないというべきであり、他に右の原告の主張を認めるに足りる証拠はない。

(2) 原告は、パンフレットの制作費用金一四七万円に金一三万円のマージンを上乗せした金一六〇万円をラグナガーデンホテルに請求し、同ホテルから支払がされており、被告には全く損害が発生していないと主張しており、右は、要するに、被告に損害が発生していないことが原告に有利な事情としてしんしゃくされるべきであるという趣旨の主張であると考えられる。

しかし、ラグナガーデンホテルは本来支払う必要のない経費を負担させられているわけであり、しかも、それは、原告の単純な過誤による経費の付け間違いなどというものではなく、原告が金員の着服の発覚を防ぐ目的で行った経費の付け替えという措置によるのであって、被告が雇用する従業員である原告がそのような行為をしたということ自体が被告の信用問題を招来しかねないのであり(原告本人)、また、原告は、経費の付け替えという措置が被告の信用問題を招来しかねないことを十分認識しながら、あえて自らの利益を優先させて金員を着服しその発覚を防ぐために経費の付け替えを行った(原告本人)というのであるから、被告にとってみれば、原告が金員の着服の発覚を防ぐ目的で行った経費の付け替えは決して看過することができない事柄であるというべきであり、その非違の程度は極めて重いというべきである。

したがって、仮に原告が主張するように原告が行った経費の付け替えによって被告には損害は生じていないとしても、そのことは原告に有利な事情としてしんしゃくすることはできないというべきである。

(3) 原告は、その本人尋問において、同じ顧客の仕事であれば、ある仕事の経費を別の仕事に付け替えることは被告内ではよく行われていることであるところ、万座ビーチホテルもラグナガーデンホテルも同じ全日空グループの仕事であり、新垣那覇支社長からは赤字を出すなと言われていたので、ビルフィッシュ・トーナメントの経費をラグナガーデンホテルの経費に付け替えることにし、新垣那覇支社長からその旨の了解も得ていたと供述する。

しかし、原告の供述だけでは、同じ顧客の仕事であれば、ある仕事の経費を別の仕事の経費に付け替えることは被告内ではよく行われていたことを認めるには足りないというべきであること、証拠(<人証略>、原告本人)によれば、原告が新垣那覇支社長からは赤字を出すなと言われていたことは認められるものの、そうであるからといって、ビルフィッシュ・トーナメントの経費をラグナガーデンホテルの経費に付け替えてもよいということにはならないこと、原告の供述だけでは、新垣那覇支社長がビルフィッシュ・トーナメントの経費をラグナガーデンホテルの経費に付け替えることを了承していたことを認めるには足りないというべきであり、他にこれを認めるに足りる証拠はないこと、以上の点によれば、右の原告の供述を採用することはできない。

(4) 原告は、琉球リゾートの金城は原告が個人で旅行した分も負担するつもりでいたのであり、本件海外視察旅行の費用として富士ツーリストに支払われた金一五〇七万二一五六円の中に原告が個人で旅行した分が含まれていたことは特に問題とすべき事柄ではないと主張し、その本人尋問において右の主張に沿う供述をし、これを裏付ける証拠(<証拠略>)を提出している。

しかし、証拠(<証拠略>)及び原告の供述だけでは右の主張に係る事実を認めるには足りないというべきであり、他に右の主張に係る事実を認めるに足りる証拠はない。

また、被告が琉球リゾートから発注された本件海外視察旅行については、あらかじめ見積書が原告から琉球リゾートに提出されているため、その代金額もあらかじめ決まっており、もし本件海外視察旅行の経費に原告が個人でした旅行の費用が含まれているとなると、その分だけ被告の利益が減少することになる(<人証略>)というのであるから、仮に原告が主張するように琉球リゾートの金城は原告が個人で旅行した分も負担するつもりでいたとしても、本件海外視察旅行の費用として富士ツーリストに支払われた金一五〇七万二一五六円の中に原告が個人で旅行した分が含まれていたことが特に問題とすべき事柄ではないということはできない。

3  以上によれば、原告は、ブルーメディアと共謀して、現実には行っていない「九一年ビルフィッシュ・トーナメント・パンフレット制作」の業務の請求書を同社から被告あてに提出させ、ブルーメディアに被告から支払を受けさせ、その金員の内金一四七万円をブルーメディアから受け取ってこれを着服していたというのであり、また、被告がブルーメディアに支払った本件海外視察旅行の費用には原告が個人で旅行した分として合計金一三七万九五三六円及び二重取りした分として合計金一八万九〇〇〇円が含まれていたというのであって、これらが本件就業規則六九条二号にいう「業務上の地位を利用して、不当に私利をはかった場合」及び同条三号にいう「故意または重大な過失により、会社に著しい損害を与えた場合」に当たることは明らかであるというべきである。

そして、原告がビルフィッシュ・トーナメントの件で着服した金員の金額は金一四七万円と多いこと、原告が金員の着服の発覚を防ぐために行った経費の付け替えによって被告は信用問題を招来しかねない状況に置かれることになったのであって、原告が行った金員の着服はこれを隠ぺいするために執られた措置も含めて考えれば、その非違の程度は極めて大きいというべきであること、原告が個人で旅行した費用を本件海外視察旅行の経費として計上した分の合計は金一三七万九五三六円で、原告が本件海外視察旅行の経費から二重取りした分は金一八万九〇〇〇円で、その合計は金一五六万八五三六円と多いこと、原告が個人で旅行した費用を本件海外視察旅行の経費として計上したり本件海外視察旅行の経費から二重取りしたことによって、被告は同額の損害を被ったこと、原告はビルフィッシュ・トーナメントの件で金員を着服したことが発覚するのを防ぐために関係者に虚偽の請求書や領収書を作成させてこれを監査室に提出したが、監査室から提出した請求書や領収書が虚偽であり原告の説明が真実ではないことを指摘されるや、原告は新たな言い訳を主張し始め、関係者に指示してその言い訳に沿う虚偽の請求書や領収書を作成させてこれを監査室に提出するということを繰り返しており、監査室から新たな言い訳について真実でないことを指摘されても、原告はビルフィッシュ・トーナメントの件で金員を着服したことを認めようとはしなかったのであって、このように原告にはしんしに反省するという態度が全く見られないのであり、このような態度の原告をこのまま被告の従業員として雇用し続ければ原告が今後も同様の行為を繰り返すであろうという懸念はおよそ全く払拭できないのであって、被告としては今後も原告を被告の従業員として雇用し続けることはできないというべきであること、以上の点に照らせば、那覇支社在任中の原告が那覇支社の売上げに相当に貢献していたこと(前記第三の一1(八))を勘案しても、被告が原告との雇用契約を打ち切るという選択をすることが原告に対する懲戒処分として重きに失するということはできないのであって、本件解雇が解雇権の濫用に当たるということはできない。

そうすると、本件解雇が違法であるということはできず、本件解雇が不法行為を構成する余地はないというべきである。

二  以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がない。

(裁判官 鈴木正紀)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例